障害厚生年金の支給停止と失権
障害厚生年金は、老齢厚生年金や遺族厚生年金と較べてさまざまな要件によって年金額が支給停止される場合が多く、その理由として、加齢や死亡といった絶対的な要件ではなく障害という流動的な要件が介在していることが一番の要因です。
ここでは、支給停止に関わる要件と、受給資格が消滅する「失権」を解説します。
障害補償による支給停止
障害厚生年金の受給権者は、資格取得の要因となった傷病について労働基準法第77条の規定による障害補償を受ける権利を取得したときは、6年間支給が停止されます。
- 労働基準法第77条(障害補償)
- 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治った場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に別表第二に定める日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならない。
障害等級 | 1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 7級 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
日数 | 1340日 | 1190日 | 1050日 | 920日 | 790日 | 670日 | 560日 |
障害等級 | 8級 | 9級 | 10級 | 11級 | 12級 | 13級 | 14級 |
日数 | 450日 | 350日 | 270日 | 200日 | 140日 | 90日 | 50日 |
通常の場合では、労働者災害補償保険(いわゆる労災保険)が適用されますから、障害厚生年金は全額支給され、労災保険の障害補償年金の額が減額される調整が行われます。
労災保険と厚生年金保険の調整については、「知りたい!障害年金とは」をご覧ください。
障害共済年金との調整による支給停止
障害等級1級又は2級である障害厚生年金の受給権者(通常であれば障害基礎年金の受給権者でもある)が、転職して公務員になった後に障害共済年金の受給権者(障害等級1級又は2級に限る)を取得した場合は、障害基礎年金の併合認定および、それに伴う障害厚生年金と障害共済年金の額の改定が行われます。しかしながら、同一事由で障害厚生年金と障害共済年金との併給は認められませんから、障害厚生年金または障害共済年金のいずれかを選択することとなり、選択しなかった年金は支給停止されます。
障害の程度による支給停止
受給権者が障害等級1級、2級または3級に該当しなくなったら、障害厚生年金はその該当しない間、支給停止されます。
障害等級に該当しなくなって支給停止された障害厚生年金(障害等級が1級または2級に限る)は、次のすべての要件に該当すれば支給停止が解除されます。
- 支給停止されている受給権者が疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その傷病に係る初診日において被保険者であって、初診日の前日において保険料納付要件を満たしていること
- 当該傷病によりその他障害の状態にあり、かつ、当該傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間において、当該障害厚生年金の支給事由となつた障害とその他障害(その他障害が2以上ある場合は、すべてのその他障害を併合した障害)とを併合した障害の程度が障害等級の1級または2級に該当するに至ったとき
失権
障害厚生年金の受給権は併合認定の規定によって消滅するほか、次のいずれかに該当する場合においても消滅します。
- 死亡したとき
- 障害等級1級、2級または3級に該当しない者が、65歳に達したとき(ただし、65歳に達した日において、障害等級1級、2級または3級に該当しなくなった日から起算して、障害等級1級、2級または3級に該当しなくなった状態で3年を経過していない場合は除く)
- 障害等級1級、2級または3級に該当しなくなった日から起算して、障害等級1級、2級または3級に該当しなくなった状態で3年を経過したとき(ただし、3年を経過した日において65歳未満である場合を除く)
2と3をまとめると、障害等級1級、2級または3級に該当しなくなった状態で65歳を迎えるか、3年が経過するかどちらか遅い方が失権時期となります。